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無電解ニッケルめっきとは?

樹脂上へめっき加工を施すうえで、最も特徴的で重要な工程が無電解ニッケルめっきです。

不導体である樹脂にこの加工を施すことで導体物とし、以後の様々な処理によって得られる艶やかな質感へと導く、きっかけを作る重要な工程です。

ここでは、その無電解ニッケルが持つ、様々な特徴や性質、用途等についてくわしく説明をしていきたいと思います。

 
無電解ニッケル(無電解Ni)とは、その名の通り、電解を使用しないニッケルめっきの工法です。

一般的には電解によって皮膜を形成しますが、無電解ニッケルは、液中に存在する還元剤の作用により、金属を還元し、金属の皮膜を形成します。

化学反応を使用するめっき液であるため化学ニッケル(化学Ni)とも呼ばれることがあります。英語名はelectroless nickel plating。故に、JIS規格では無電解めっきの事をELpと表記します。

又、皮膜中にリンを含有する事が一般的であるため、Ni-Pめっき皮膜として無電解ニッケルを使用し、それをNi-Pと標記することもあります。

ちなみにですが、カニゼンめっきという表現もあり、広い意味では無電解ニッケルの事を示します。

●無電解ニッケルめっき加工の特性



無電解ニッケルめっきは、先にも触れたとおり、電気を使用することなくめっきを施すことができる事が最大の特徴です。それゆえ、電気めっきと違う様々な特徴があります。

先ずは反応機構上、どうしても触媒付与が必要な為、前処理工程が電気めっきよりやや複雑になります。パラジウム(Pd)や鉄(Fe)、ニッケル(Ni)等の第8族金属が触媒として機能する為、樹脂上へのめっきではパラジウムを触媒として使用します。

よって、鉄やニッケルには特に触媒付与は必要ありませんが、銅合金では、樹脂同様、パラジウムの付与を行うのが一般的です。

還元剤には次亜リン酸ナトリウムを使用する事が多く、それゆえ析出皮膜はニッケル-リンの合金皮膜となります。その含リン率によって若干皮膜の特性が変わる所も、無電解ニッケルの特徴であり、物性的な性質が豊富で用途が広がっている理由と考えられます。

電気を使用しない為、樹脂やセラミック等の不導体にもめっきを施す事が可能な上、電気めっきの最大の欠点である均一電着性については圧倒的な優位性をもっており、その精度は±10%以内。

形状の変化に対しても液の循環が適切に行われていれば、殆ど問題にはならず、均一にめっき膜厚を施す事が出来ます。膜厚のコントロールは浸漬時間で調整する事が一般的で時間と膜厚は基本的には比例関係となります。

しかしながら、析出速度は電気めっきより遅く、一般的な条件での比較では電気めっきのおよそ半分程度の析出速度になります。(高温・酸性無電解ニッケルの場合:12~20μm/h)

皮膜の特性は、基本リンを含有する皮膜となり、そのP含有率は2~10%。めっき上がりではその組成は完全な非結晶質(amorphous)となっています。溶融温度は、890℃。基本的には、非磁性の皮膜ですが、リンが8%未満のものや、250℃以上の温度で熱処理を行った場合は、磁性を帯びるようになります。

硬度は、ビッカス硬度で500Hv程度ですが、こちらも熱処理(ベーキング)を行うとビッカス硬度900~1,000Hv程度まで硬化することができます。これらの、熱処理(ベーキング)による、性状の変化は、熱を加えることで非結晶質皮膜が結晶質皮膜に変化することによっておこります。

耐食性は、準ニッケルとほぼ同様アルカリや溶剤等にはおかされません。酸性浴に対しては、含リン率が高いほど優れる傾向があります。

密着性に関しては、めっきを施行する相手にもよりますが、鉄に施した場合、30,000~70,000psi程度。耐熱性も高く、酸化変色はしますが剥離現象は起こりません。

耐摩耗性に関しても、硬度が勝る為、電気ニッケル皮膜より明らかに優れています。

その他特性に関しましては、下記特性表を参照してください。
 無電解Niと電気Niの特性比較表
 
 性質  無電解ニッケル  電気ニッケル
 成分  Ni:90~98%
 P:2~10%
 Ni99.5%
 組織  非結晶性  微結晶性
 融点  890℃  1450℃
 電気抵抗率  60μΩ㎝  8.5μΩ㎝
 熱伝導度  0.0105cal/cm/sec/℃  ー
 膨張係数  1.3×10-6cm/cm/℃  ー
 反射率  40~50%  ー
 比重  7.9  8.9
 硬さ
 (めっき直後)
 500±50Hv  150~250Hv(普通浴)
 硬さ
 (熱処理後)
 1025±50Hv  400~500Hv(光沢浴)
 鉄への密着力  30,000~70,000psi  30,000~60,000psi
 伸び率  3~6%  10~30%(普通浴)  
 4~15%(普通浴)
 摩擦抵抗  13.7  14.7
 応力  圧縮  引っ張り
 多孔性  25μmの厚さでなし  5μmの厚さで消える
 磁気係数  4.00%  37.50%
 めっき速度  約15~20μm/h
(中リンタイプ)
 3A/dm
 約30~35μm/h

出典
斎藤 囲,本間 英夫,山下 嗣人,小岩 一郎 
入門新めっき技術 p193. (株)工業調査会(2007)

 

●無電解ニッケルの短所 



 前項でも触れたとおり、形状に左右されない均一電着性、樹脂やセラミック等の不導体にもめっきを施行出来る、含リン率によって様々な皮膜特性を得られる、更に電気を使用しない為、整流器が不要、通電の為の接点を必要としない等、様々な長所がある無電解ニッケルですが、幾つか短所もあります。

 先ずは、次亜リン酸ナトリウムやDMAB等の還元剤を使用する為、原材料費が高い事、そして化学反応による副生成分の蓄積により、定期的な更新が必要という理由により、ランニングコストは電気めっきの数倍はかかります。

併せて、液温を90℃程度まで上昇させる一般的なタイプの無電解ニッケルの場合は、エネルギーコストも上昇します。

 管理方法は、無電解銅のように自然消耗する成分が多くない為、それほど困難ではありませんが、電気めっきよりは、頻度の高い分析管理は必要になります。


 
無電解ニッケルめっきの種類について説明します。

種類の分け方として、先ず使用する還元剤の種類によって、ニッケル-リン系とニッケルーホウ素系。更に、含リン率の高低により、低リンタイプ、中リンタイプ、高リンタイプの3種に分かれます。

樹脂めっき専用の、低温タイプは低リンタイプに含まれますが、明らかに特性が違うため、低温タイプ・アルカリタイプ或いは化学ニッケル等、様々な表現が存在します。

それぞれの特性を、以下に示します。

 

●ニッケル-リン系



・低リンタイプ(P 4%以下)

硬度が高く(650~700Hv)、耐摩耗性に優れますが耐食性が劣ります。耐アルカリ性に優れる。主に、摺動部品等に使用される。
 

・中リンタイプ(P 6~9%)

最も一般的に広く使用されていて、光沢性と析出速度が優れている。耐食性や耐摩耗性、はんだ濡性等、他の無電解ニッケルめっきと比べ、平均的な値を示します。


・高リンタイプ(P 10%以上)

耐食性、耐酸性に優れますがはんだ付け性は優れない。また高リンは非晶質なため非磁性である。
 

・低温タイプ

主として、樹脂上のめっき等、高温での処理が好ましくない物の導体化処理として使用される。他の液と違いアルカリ性のめっき液であり、光沢は全く得られない。
 

 

●ニッケルーホウ素系(B1%以下)



但し、析出速度は遅く、ホウ素系添加剤が高価な為、コスト的には圧倒的に不利なめっき液です。

他の無電解ニッケルめっきと比べ、耐熱性、はんだ付け性やボンディング性に優れます。反応性は非常に強く、触媒付与しにくい材料には抜群に効果を発揮します。

 

 

無電解ニッケルめっき品に稀にみられる不具合について、その原因について説明します。

均一性にも優れ、時間管理により膜厚も想定通り施行する事が容易な工法の為、比較的不具合事象は発生しにくいのですが、液管理面の不具合(液濃度、温度)により膜厚が薄かった場合などには、ピンホールからの錆び腐食が発生し、浸食が進むと剥離・剥がれに至るケースがあります。

又、めっき前の処理にて充分に油分や酸化皮膜が除去出来ていなかった場合等にも、剥離。剥がれが発生します。

もちろん、含リン率の変化による特性を品質に盛り込んだ場合には、浴管理によって特性が変わる為、精度の高い管理技術が必要となります。

 
無電解ニッケルは、その個性的な皮膜特性とそのバリエーションの豊かさゆえ様々な分野にて活用されています。

無電解ニッケル処理の用途・製品について、下記表にまとめてみました。
 
 産業分類
 
 適用部品(応用例)
 
 使用目的
 
 自動車工業  ディスクブレーキ、
 ピストン、
 シリンダ、ベアリング
 精密歯車、回転軸、カム、
 各種弁、エンジン内部
 耐食性、耐磨耗性
 硬さ、焼き付き防止
 寸法精度
 電子工業  接点、シャフト、
 パッケージ、
 ボルト、ナット
 マグネット、ばね、ステム、
 コンピュータ部品
 電子部品、抵抗体
 耐食性、寸法精度
 硬さ、はんだ付け性
 蝋付け性、溶接性
 精密機器工業  時計部品、カメラ部品、
 VTR部品、複写機
 プリンター、光学機械部品、
 電顕部品
 分析機器部品、電気部品
 寸法精度、耐食性
 硬さ、耐磨耗性
 電気特性、非磁性
 航空、船舶  水圧計機器、電気系統部品、
 弁配管、エンジン、
 スクリュー部品など
 耐食性、耐磨耗性
 硬さ、寸法精度
 化学工業  反応槽、輸送管、揺動弁、
 バルブ類、ポンプ
 パイプ内部、熱交換器
 耐食性、汚染防止
 酸化防止、耐磨耗性
 その他  ハードディスク、冷凍機、
 冷暖房器、工作機械部品、
 真空機器、各種金型
 繊維機械部品、食品機械、
 航空機
 耐熱非磁性、硬さ
 耐磨耗性、離型性
 気密度、寸法精度

出典
現場のための表面処理技術ハンドブック p105. 社団法人 日本表面処理機材工業会(2007)

 
無電解ニッケルめっき技術は、完成度も高く、金属、樹脂、セラミック、等の様々な材料に対して、個性的な皮膜を施し、あらゆる分野で信頼性の高い製品の供給に携わっています。

更に近年は、電子機器の小型化や携帯化に伴い,搭載基板の高密度化や回路の独立化が飛躍的に進んでおり、無電解めっきによる成膜の技術が、今まで以上に電子産業分野において必要不可欠な要素技術にもなっています。

外観の美しさのみならず、薄膜化、均一性、磁性、非磁性、高度等、様々な機能性品質の要求にも対応できる大きな可能性を秘めた技術です。

我々は、現在、導電皮膜形成を目的に使用している事がほとんどですが、この技術の可能性とともに新たな分野へのアプローチと社会貢献を目指していければと、思っています。