株式会社 真工社
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プラスチックめっきとは?

プラスチックへのめっきは、ABS樹脂が工業的に量産されるようになった際に、それにめっき加工を施す工業的需要の高まりの中で発展してきました。

元々は、プラスチック表面に金属光沢を付与するために、装飾目的でめっき加工を行っていましたが、近年では、プラスチックに、耐水性、耐候性などの機能性を付与する目的でもめっき加工が行われるようになってきました。

現在、私達が日常生活を送る上で、実に様々なプラスチックが使われていると言えます。

例えば、ビニール袋の素材として用いられていたポリ塩化ビニルは、クロロエチレンを重合して作られますが、耐水性、耐熱性に優れています。合成繊維として用いられているポリエステルは、高い耐久性、耐摩耗性を有しています。

実に多種多様な性質を持つプラスチックではありますが、何れにせよ、優れた電気絶縁性という共通の性質を持っていると言えます。

そんな電気を通さないプラスチックにめっきをするとなると、一見してちぐはぐなようにも思いますが…。今回はこの不思議なプラスチックめっきの世界に皆さんをご招待しましょう。
 
金属上のめっき(電気めっき)は、原則として、電極から供給される電子を用いて、めっき槽中に存在する金属イオンを還元し、表面上に金属として析出させることで形成されます。金属は、元から電気を通すため、密着性はともかくとして、活性な金属表面があれば、そこにめっき層が形成されていきます。

対して、プラスチックは、元々は電気を通さないため、電極から電気をもらうことができません。逆に言えば、電気めっき以外の方法で、プラスチック表面に電気を通す層を形成することができれば、電気めっきを行えるようになるとも言えます。

そこで、そのめっきの下準備の技術として、エッチングという技術が用いられます。

ABS樹脂を例にすると、ABS樹脂は、アクリルニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)を共重合させることにより生成されますが、高温の六価クロム酸/硫酸溶液中にABS樹脂を浸漬させると、ブタジエン成分が酸化分解され、凹凸のある表面に改質されます。

ABS樹脂は、その組成的に化学反応によるエッチングが可能ですが、ポリエチレンなど、化学反応の起点となる官能基をもたない場合は、プラズマ処理などで、物理的に表面を荒らしたりします。

表面に凹凸が出来たら、次に、その凹凸表面上に金属イオンの核を吸着させます。金属イオンの核としては、一般的にパラジウムが用いられています。

パラジウムの原料としては、塩化第一スズと塩化パラジウムの混合溶液が用いられます。この溶液は、中心がパラジウム-スズの核、その外周がスズリッチ層、最外殻がスズイオンからなる微粒子を含んでおり、この微粒子が、ファンデルワールス力という物理的な相互作用により表面上に吸着されていきます。

原理的には、この金属核を起点として電気めっきを行えなくもないですが、いかんせん、この状態では密着性が悪い膜しか得られないので、まだ一工夫、二工夫する必要があります。

結論から言えば、薄い金属の層を形成させ、その上に電気めっきを行えば、密着性が確保できるのですが、その金属の薄い膜を形成する手段として、一般的に無電解ニッケルめっきが用いられています。

無電解ニッケルめっきは、電気ではなく、還元剤で液中のニッケルイオンを還元、析出させる技術です。還元剤としては、次亜リン酸ソーダ、ホウ素化合物、ヒドラジンが一般的に用いられており、弊社では、次亜リン酸を用いての無電解ニッケルめっきを行っています。

無電解ニッケルめっきを行うためには、まず、先程お話した、プラスチック表面上に吸着させたパラジウムースズ微粒子の内、スズ成分だけを取り除く必要があります。次亜リン酸イオンが、スズに対する活性が低く、スズ表面上で、無電解ニッケルめっきが起こりづらいためです。スズのみを選択的に除去するのには、硫酸溶液が用いられています。

この、パラジウム-スズ核をプラスチック表面上に吸着させる工程を”キャタリスト”、スズを除去する工程を”アクセラレーター”、キャタリスト、アクセラレーターまでの一連の工程を総称して”触媒化工程”と呼びます。ここまで来て、ようやく無電解ニッケルめっきを行えるようになります。

電気めっきに関しては、最終的な製品の使用環境によって、どの電気めっきを行うかが変わってきますが、一般的には、耐食性、装飾性などの観点から、銅-ニッケル-クロムの3層の電気めっきが行われています。
例えば、自動車のナンバープレート周り、グリルなどの外装部品で用いられている製品に対して、要求される膜厚規格は、Cu:5~15μm、Ni:8~15μm、Cr:0.1~0.3μmとなります。

製品の外観を決定づけるクロムめっきには、優れた意匠性を付与するために、ダーク3価めっき、ベロアめっき、サテンめっき、ダークサテンめっきなどの様々な種類があります。

クロムめっき液には、元来6価のクロム酸が用いられていましたが、人体への毒性や土壌汚染、水質汚染の恐れがあること、また、RoHS指令により、国際的にその含有量が規制されるようになったことからも、無害な3価のクロムを用いためっきへ移行しつつあります。

しかし、3価クロムめっきには、6価クロム液よりも安定性が低い、厚付けが難しいといった課題が残されています。

プラスチックの電気めっきにおいて、一連の工程を流動させ、さらに電極から電気を供給するために、製品を治具に取り付ける必要があります。

取り付ける際に、治具の金属の接点とプラスチック製品とを物理的に接触させますが、その接触箇所は、キズがついたり、めっきの付き回りが悪くなることが常なため、最終的な製品外観に影響を与えない箇所を選択することが必要です。

また、電気めっき前に無電解めっきを行っているとは言え、接点からは電気が流れにくいため、接点を製品と強く接触させなければなりません。そうすると、厚いプラスチックなら大丈夫ですが、薄い場合は、接触箇所が変形してしまう可能性も出てきます。プラスチック成形時に残り、最終的には取り除かれるランナーなどがあれば、そこを利用するのが手っ取り早いかもしれません。


接点の形状は、点で押し当てるものから、左右から掴む、への字形にして穴に引っ掛けるものなど様々あります。製品のどこと接触させたいかによって、形状を使い分けていきます。

接点は多ければ多いほど、製品全体にまんべんなく電気が供給されるようになりますが、上で述べたことに加えて、治具作成時のコスト的な問題(一般的に接点が多い方が値段が高くなります)からも接点を設けられる箇所は限られています。特に形状は接点をどうするかで決まると言っても過言ではないので、製品の品質、治具のコストを考慮しながらの治具設計が、まさに設計時の肝とも言えます。

治具は、接点以外の箇所は塩ビゾルによりコーティングされており、めっきが付かないようになっています。しかし。使用を重ねると、コーティングが穴が空いたり破けたりして、そこにめっきが析出、めっき液が浸入する等して、不良の原因となります。

また、治具の接点には、当然、めっきが付きます。そのままめっきを繰り返していると、厚くなっためっき膜が剥がれ落ちたりして、これまた不良の原因となるため、接点のめっきは、毎回、剥離する必要があります。このように、製品だけではなく、治具の品質を管理することも、プラスチックの電気めっきを行う上では非常に重要です。
銅-ニッケル-クロムの3層めっきを例にすると、表層のクロムは塩酸、銅、ニッケルは硫酸を用いれば、剥離することが可能です。
 

 
自動車などの外装部品の場合、特に表面に輪ジミなどの汚れができやすいです。

輪ジミは酸性洗剤で落とせますが、塩酸が使用されている洗剤の場合は、クロムは塩酸で溶解してしまうため、出来るだけ薄めてから使用する必要があります。

また、クロムめっきは膜厚が薄いことが多く、強くこすりすぎると皮膜が剥がれてしまうので、磨く際は、柔らかいタオル等を使用します。
プラスチック上のめっきが腐食した場合、そのままでは、下地の素地まで腐食が進んでしまうので、市販のめっき調スプレーで腐食箇所をコーティングする必要があります。

素地まで腐食が進んでいない場合であれば、めっきを一度全て剥離した後に、再メッキを行うことは可能です。

根本的にめっきの腐食が発生しないようにするために、予め、塗装を行うなどの方法はあります。

 
プラスチックめっきは、素材がプラスチックという点において、金属よりも軽量であり、材料費が安いという大きな利点があります。

また、プラスチックは、金属よりも複雑な形状に成形が可能であり、あらゆるフィールドにおいて幅広く利用されています。

今後も、日常生活の欠かせない製品として、プラスチックおよびプラスチックめっきの技術が用いられていくことでしょう。